M&Aで会社の価値を算定する際、使われていない土地や閉鎖済みの工場は、どのように扱うのでしょうか。
本業に使っていない不動産でも、売却や賃貸が可能であれば、その価値を株式価値に反映できる場合があります。ただし、不動産の評価額が、そのまま買収価格に上乗せされるとは限りません。解体費や売却費用、現金化までの期間なども確認する必要があります。
この記事では、非事業用資産の意味、遊休不動産の評価方法、M&Aの株式価値へ反映する際の注意点を解説します。
非事業用資産とは
事業価値とは分けて評価する資産
非事業用資産とは、企業価値評価において、評価対象となる事業の運営に必要ではなく、事業価値とは分けて評価する資産を指します。
代表例には、事業運営に必要な水準を超える余剰現金、事業と直接関係のない投資有価証券、利用予定のない遊休不動産などがあります。
ただし、非事業用資産は「収益を生まない資産」という意味ではありません。 本業とは別に保有する賃貸不動産のように、収入があっても事業価値と切り離して評価する場合があります。
資産の種類や収入の有無だけでなく、評価する事業との関係を踏まえて判断します。
遊休不動産と事業用不動産の違い
遊休不動産とは、企業が保有しているものの、現時点では事業などに使っていない土地や建物です。閉鎖した工場、移転後の旧本社、未利用の土地などが該当します。
一方、稼働中の工場や営業店舗などは、通常、事業を続けるために必要な事業用不動産です。
注意したいのは、現在使っていない不動産でも、将来の事業に必要な場合があることです。
例えば、具体的な増設計画に組み込まれた土地や、一時的に休止している施設は、利用計画を確認しなければ分類できません。その不動産を手放しても事業計画を実行できるか、将来の売上や設備投資が利用を前提としていないかを確かめます。
M&Aで遊休不動産を株式価値に反映する方法
事業価値に含まれていない価値を加算する
本業の将来キャッシュフローから事業価値を求める場合、その計算に含まれていない遊休不動産は、別途評価して加算します。
基本的な考え方は、次のとおりです。
株式価値=事業価値+非事業用資産の価値-有利子負債等
ここで加算するのは、事業価値に織り込まれていない資産の価値です。実際の評価では、負債に準じる項目や個別の調整事項も整理します。
不動産が1億円なら、買収価格も1億円上がるのか
遊休不動産の評価額が1億円でも、株式価値への加算額が必ず1億円になるわけではありません。
例えば、事業価値などを次のように評価した会社を考えます。
| 項目 | 金額 |
| 事業価値 | 5億円 |
| 余剰現金 | 5,000万円 |
| 遊休不動産の評価額 | 1億円 |
| 有利子負債 | 2億円 |
ほかの調整がなければ、株式価値は以下のとおりです。
5億円+5,000万円+1億円-2億円=4億5,000万円
ここで、不動産の1億円が「既存建物を解体した後の更地価格」であり、解体費1,000万円が評価に含まれていないとします。さらに、買い手が売却を前提とし、未反映の売却関連費用500万円も価格調整に織り込むことで合意した場合、不動産に関する加算額は次のようになります。
1億円-1,000万円-500万円=8,500万円
この条件では、株式価値は4億3,500万円です。
これは税金などを省略した説明用の例です。実務では、評価額に含まれる費用の範囲、売却方針、税負担などを確認します。不動産の評価額と、取引価格に反映する調整額を区別することがポイントです。
二重計上を防ぐために確認すること
遊休不動産を加算する前に、採用する評価方法や計算の前提を確認します。
| 確認事項 | 注意点 |
| 不動産の価値が既に含まれていないか | 修正純資産法で時価を反映済みなら、同じ不動産を再加算しない |
| 関連する収益・費用をどう扱っているか | 別途評価する不動産の賃料や管理費などを、事業価値の計算と整合させる |
| 処分費用が評価額に織り込まれていないか | 解体費などを評価額と株式価値の両方から控除しない |
| 余剰現金を既に反映していないか | ネットデットの計算で調整済みの現金を重ねて加算しない |
例えば、賃貸不動産の収益を含めて事業価値を求め、さらに同じ不動産の価値を加算すると、価値が重複するおそれがあります。別途評価するなら、関連する収益・費用も含めて計算の範囲をそろえます。
遊休不動産の評価方法
帳簿価額ではなく、現在の市場価値を把握する
帳簿価額は、取得時の金額や減価償却などを反映した会計上の金額であり、現在売却できる価格とは限りません。
長年保有している土地に含み益が生じていることもあれば、地域の需要減少や建物の老朽化によって、帳簿価額を下回ることもあります。
固定資産税評価額や相続税路線価も、評価の目的や仕組みが異なります。参考資料にはなりますが、その金額をそのままM&Aにおける市場価値として扱うことはできません。
不動産の特性に応じて手法を選ぶ
不動産鑑定評価の基本的な手法には、取引事例比較法、収益還元法、原価法があります。対象不動産の特性や市場の状況に応じて適用し、各手法で求めた価格を検討します。
| 評価手法 | 考え方 | 主に確認する点 |
| 取引事例比較法 | 類似する不動産の取引価格から評価する | 立地、面積、形状、接道条件、取引時点などの違い |
| 収益還元法 | 将来得られる純収益から評価する | 賃貸需要、想定賃料、稼働率、改修費や維持費 |
| 原価法 | 再調達に必要な原価から減価を反映する | 建物の老朽化、機能の陳腐化など |
近隣の土地が高く売れていても、接道条件や土地の形状が違えば、同じ単価で評価できるとは限りません。
また、空室の建物について賃貸を想定する場合は、借り手の需要や必要な改修費を調べます。希望する賃料だけで収益を見積もると、評価額が過大になるおそれがあります。
建物を残すか、解体するかも検討する
遊休不動産では、建物を改修して貸す場合と、解体して土地を売る場合とで、価値が変わることがあります。
不動産評価では、その不動産の効用を十分に発揮できる使用方法である「最有効使用」を検討します。
ただし、再開発を想定すれば価値が高くなるとは限りません。用途地域などの制限、建築・造成費、地域の需要、事業化までの期間を踏まえ、実現可能な利用方法を比較します。
遊休不動産の評価で見落としやすいリスク
解体・改修・環境対応の負担
古い工場や倉庫では、建物の解体や改修に加え、アスベストへの対応、土壌汚染の調査・対策などに費用がかかる場合があります。
特に、過去の利用履歴が分からない土地や地下埋設物が疑われる物件は、調査前の段階では費用を確定できないこともあります。
判明している費用と、未調査のリスクを分け、追加調査や取引条件でどう対応するかを検討します。
売却期間と維持管理費
評価額が分かっても、すぐにその金額で売却できるとは限りません。
大規模な土地や特殊な建物は買い手が限られ、現金化までに時間がかかることがあります。その間も固定資産税、保険料、警備費、修繕費などが発生します。
買い手が早期売却を前提としている場合は、評価で想定した販売期間や条件との違いを確認する必要があります。
担保や利用上の制約
本業に使っていない不動産でも、会社の借入金の担保に入っている場合があります。境界や第三者の利用状況によって、売却・活用に制約が生じることもあります。
主な確認項目は、次のとおりです。
- 抵当権などの担保設定
- 境界未確定や越境の有無
- 接道条件や建築上の制限
- 賃貸借契約や第三者の利用状況
- 土壌汚染や地下埋設物の可能性
非事業用資産に分類できても、自由に処分できるとは限りません。価格とあわせて、売却や活用に必要な条件を把握します。
遊休不動産を取引に含めるか、切り離すか
遊休不動産の扱いには、主に次の選択肢があります。
| 選択肢 | 主な検討事項 |
| 対象会社に残して買収する | 買収後の活用・売却方針、管理負担、取得価格への反映 |
| M&A前に第三者へ売却する | 売却期間、税金・費用、売却代金の扱い |
| 売り手側に切り離して残す | 移転方法、税務・法務上の手続き、担保や契約への影響 |
買い手が必要としない不動産を切り離すことで、取得資金や買収後の管理負担を抑えられる場合があります。一方、移転手続きや売却に時間がかかり、M&Aの日程に影響することもあります。
また、M&A前に不動産を売却しても、代金が対象会社に残る場合は、その現金の扱いを株式価値へ反映します。
どの方法が適しているかは、不動産の評価額だけでは決まりません。税負担や手続きにかかる費用、最終的な手取り、取引日程を比較して判断します。
まとめ
M&Aで遊休不動産を評価する際は、将来の事業に必要な資産かどうかを確認したうえで、市場価値と処分・保有に伴う負担を把握します。株式価値へ反映する段階では、評価方法や収益・費用との整合を取り、二重計上を防ぐ必要があります。
帳簿価額と時価に差がありそうな場合や、旧工場の解体・用途変更が評価に影響する場合は、取引価格を固める前に不動産の評価条件を整理しておくと、交渉の根拠を共有しやすくなります。
中央不動産鑑定所では、M&Aに関わる不動産鑑定評価に対応しています。遊休地や旧工場などの時価を把握し、取引条件の検討に役立てたい場合はご相談ください。
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