M&Aでは、どのスキームを選択するかによって、引き継ぐ資産・負債、税務、法務上の取り扱いが大きく異なります。
特に、不動産を保有する企業のM&Aでは、不動産の承継方法や評価額が企業価値に大きく影響するため、スキーム選定が重要になります。
例えば、株式譲渡では会社全体を包括承継する一方、事業譲渡では特定資産のみを切り分けることが可能です。そのため、どの不動産を引き継ぐのかによって、取引価格やリスクの考え方も変わります。
また、古く取得した不動産では、簿価と時価に大きな差が生じているケースもあり、含み損益が企業価値へ影響することも少なくありません。
本記事では、M&Aスキームの基本から代表的な種類、それぞれの特徴や注意点、不動産評価との関係性についてわかりやすく解説します。
M&Aのスキームとは?
M&Aスキームとは、企業間で行われる合併や買収を実現するための手法や取引の枠組みを指します。
代表的な手法には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、株式移転などがあります。
M&Aでは、「何を」「どの範囲まで」「どのように引き継ぐか」によって適切なスキームが変わります。
例えば、会社全体をそのまま引き継ぎたい場合は株式譲渡が選ばれることが多く、特定事業だけを切り出したい場合は事業譲渡や会社分割が活用されます。
スキーム選定を誤ると、税務負担や法務リスクが増えたり、取引後の統合がスムーズに進まなかったりする可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
こちらの記事もご覧ください▶︎M&A(エムアンドエー)のメリットとは?詳しく解説します。
「合併」と「買収」の違い
M&Aは大きく分けると「合併」と「買収」に分類されます。
合併とは、複数の会社が1つの会社として統合される手法です。代表的なものに「吸収合併」と「新設合併」があります。
一方、買収とは、ある会社が別の会社の経営権や事業を取得する手法です。株式譲渡や事業譲渡が代表例です。
実務上は、中小企業M&Aでは株式譲渡による買収が一般的に多く利用されています。
代表的なM&Aスキームの種類
株式譲渡
株式譲渡は、売手企業の株主が保有する株式を買手企業へ譲渡することで、経営権を移転する手法です。
現在の中小企業M&Aでは、一般的に利用されることが多いスキームです。
メリット
株式譲渡は、手続きが比較的シンプルで、契約や許認可をそのまま引き継ぎやすい点が特徴です。従業員や取引先への影響も比較的少なく、会社全体を包括的に承継しやすいというメリットがあります。
デメリット
一方で、会社全体を引き継ぐため、簿外債務や潜在的なリスクも承継する可能性があります。そのため、事前のデューデリジェンスが重要です。
特に、不動産を保有している会社では、担保設定や未登記建物、遊休不動産の有無なども重要な確認項目となります。
また、不動産の含み損益が企業価値に大きく影響するケースもあり、適正価格の把握が重要です。
株式譲渡が向いているケース
株式譲渡は、会社全体をそのまま引き継ぎたい場合に向いているスキームです。
例えば、事業承継として会社を引き継ぎたい場合、従業員や取引先との契約を維持したい場合、許認可を継続したままM&Aを進めたい場合、会社ブランドや取引実績をそのまま残したい場合などに活用されます。
中小企業M&Aでは利用しやすいスキームですが、会社全体を引き継ぐため、簿外債務や不動産リスクも包括的に承継する点には注意が必要です。
事業譲渡
事業譲渡は、会社全体ではなく、特定の事業のみを譲渡するスキームです。
必要な事業だけを選択的に取得できるため、柔軟性の高い手法として活用されています。
メリット
事業譲渡では、必要な事業のみを取得でき、不要な負債やリスクを切り離しやすい点が特徴です。買手側が取得範囲を調整できるため、目的に応じた柔軟なM&Aが可能です。
デメリット
一方で、契約や資産を個別に移転する必要があるため、手続きが煩雑になりやすい点があります。また、従業員や取引先との再契約が発生する場合もあります。
不動産が含まれる場合には、所有権移転登記や担保権の確認、不動産の適正価格の把握なども重要になります。
また、不動産を譲渡対象へ含める場合には、不動産取得税や登録免許税に加え、譲渡対象資産によっては消費税の取り扱いも検討する必要があります。ただし、土地や借地権など一部の資産は消費税が非課税となるため、税務面の確認が重要です。
事業譲渡が向いているケース
事業譲渡は、特定の事業のみを切り出したい場合に向いているスキームです。
例えば、一部事業のみを売却したい場合、赤字事業を切り離したい場合、不要資産を残したまま譲渡したい場合、不動産を保有会社へ残したい場合などに活用されます。
事業譲渡では、対象資産を選別できるため、柔軟なM&Aが可能です。
一方で、契約や許認可を個別に移転する必要があり、手続きが複雑化しやすい特徴があります。
会社分割
会社分割は、会社の事業を切り出して他社へ承継させるスキームです。
会社分割には、既存会社へ事業を承継する「吸収分割」と、新たに設立した会社へ事業を承継する「新設分割」があります。
メリット
会社分割は、特定事業のみを切り出しやすく、組織再編に活用しやすい点が特徴です。また、一定の範囲で契約関係や権利義務を包括的に承継できる場合があります。
デメリット
一方で、会社分割は法務手続きが複雑になりやすく、関係者への説明や調整が必要です。税務設計も慎重に行う必要があります。
会社分割では、どの不動産をどの会社へ承継させるかによって、企業グループ全体の資産構成や財務内容に影響が出ることがあります。
そのため、不動産の収益性や市場価値を踏まえた検討が重要です。
M&Aスキームごとの違い
| スキーム | 特徴 | メリット | 注意点 |
| 株式譲渡 | 会社全体を承継 | 手続きが比較的簡単 | 簿外債務リスク |
| 事業譲渡 | 特定事業のみ譲渡 | 柔軟な選択が可能 | 個別手続きが多い |
| 会社分割 | 事業を切り出して承継 | 組織再編向き | 法務が複雑 |
M&Aスキームを選ぶ際のポイント
M&Aの目的を明確にする
まず重要なのは、「なぜM&Aを行うのか」を明確にすることです。
事業承継、新規事業参入、事業拡大、不採算事業整理、グループ再編など、目的によって最適なスキームは異なります。
例えば、会社全体を引き継ぎたい場合は株式譲渡が適していることが多く、特定事業や特定資産のみを移転したい場合は事業譲渡や会社分割が検討されます。
税務・法務を確認する
M&Aでは、スキームごとに税務や法務上の扱いが変わります。
例えば、事業譲渡では譲渡対象資産によって消費税が発生する場合がありますが、土地や借地権などは非課税となります。一方、株式譲渡では通常、消費税は発生しません。
また、契約承継や許認可の扱いもスキームごとに異なるため、専門家による確認が重要です。
リスク管理を意識する
M&Aでは、簿外債務や偶発債務など、見えにくいリスクへの対応も重要です。
特に不動産を保有する会社では、不動産の時価、担保設定、境界問題、土壌汚染リスク、未登記建物、賃貸借契約、遊休不動産の有無などを確認する必要があります。
不動産の評価を誤ると、企業価値算定そのものに大きな影響を与える可能性があります。
M&Aで不動産が問題になりやすいケース
M&Aでは、不動産に関する問題が後から発覚するケースも少なくありません。
例えば、未登記建物が存在していたケース、社宅が個人名義のままだったケース、遊休不動産の評価が適正ではなかったケース、担保設定が残っていたケース、境界未確定の土地があったケース、土壌汚染リスクが発覚したケース、簿価と時価に大きな差があったケースなどがあります。
このような問題は、M&A価格や契約条件へ大きく影響する可能性があります。
特に、古くから保有している不動産では、帳簿価格と実際の市場価格に大きな差があるケースも多く、企業価値算定へ影響を与えることがあります。
不動産鑑定が必要になるタイミング
M&Aでは、不動産鑑定評価が必要になるケースもあります。
例えば、M&A価格の妥当性を確認したい場合、不動産の含み損益を把握したい場合、時価純資産を算定したい場合、事業譲渡対象不動産を評価したい場合、親族間M&Aで適正価格が必要な場合、金融機関向け説明資料が必要な場合、不動産保有会社の企業価値を把握したい場合などです。
不動産価値は、M&A価格そのものへ影響することも少なくありません。
そのため、客観的な不動産評価を行うことで、価格交渉やリスク整理を進めやすくなります。
不動産を保有する企業のM&Aで重要なこと
不動産を保有している会社のM&Aでは、不動産評価が非常に重要になります。
帳簿価格と実際の市場価格に大きな差があるケースも少なくありません。
例えば、古く取得した不動産では、簿価は低くても市場価値が高い場合があります。逆に、収益性が低下している不動産では、想定より価値が下がっていることもあります。
このような不動産の含み損益は、企業価値算定に大きな影響を与えます。
また、M&Aでは、時価純資産ベースで企業価値を確認するケースも多く、不動産の適正価格を把握することが重要になります。
さらに、事業譲渡や会社分割では、不動産をどこまで承継対象に含めるかも重要な論点になります。
このようなリスクを回避するためには、不動産の専門的な視点から適正な価値を把握することが不可欠です。
不動産鑑定評価は、客観的かつ専門的な手法に基づき、不動産の適正価格を明確にすることで、企業価値算定の精度向上に役立ちます。
M&Aにおける意思決定の質を高めるためには、財務情報だけでなく、不動産価値を含めた総合的な分析を行い、専門家と連携しながら慎重に進めることが重要です。
まとめ
M&Aのスキームには、株式譲渡、事業譲渡、会社分割などさまざまな種類があり、それぞれ引き継ぐ資産・負債や税務、法務上の取り扱いが異なります。
どのスキームを選択するかによって、M&A後の経営や財務状況にも大きな影響が出るため、目的や事業内容に応じた慎重な判断が重要です。
特に、不動産を保有する企業では、不動産価値が企業価値算定に大きく関わるケースも少なくありません。
例えば、古く取得した不動産では、帳簿価格と実際の市場価格に差が生じていることもあり、含み損益がM&A価格へ影響するケースがあります。また、遊休不動産や担保設定、未登記建物、収益性の低下した不動産などが、取引条件やリスク判断に関わることもあります。
そのため、M&Aでは単にスキームを選ぶだけでなく、不動産を含めた資産価値を適切に把握し、リスクを整理したうえで進めることが重要です。
中央不動産鑑定所では、不動産を保有する企業のM&Aにおいて、不動産鑑定評価や企業価値算定に関するご相談にも対応しております。
M&Aに伴う不動産評価、時価算定、資産査定などをご検討の際は、お気軽にご相談ください。





