資産評価とM&A

EV/EBITDAマルチプルとは?計算方法・倍率の見方とM&Aでの注意点を解説

EV/EBITDAマルチプルとは?計算方法・倍率の見方とM&Aでの注意点を解説
士業様からのご相談について

M&Aで「提示された買収価格は妥当なのか」「自社はいくらで売却できるのか」を検討する際、判断材料になるのがEV/EBITDAマルチプルです。

類似する企業が利益に対して何倍の価値で評価されているかを参考に、対象会社の価値を推計します。

買い手が買収価格を検証する場面や、売り手が希望価格の根拠を整理する場面で活用されます。

ただし、倍率が低ければ割安、高ければ割高と単純に判断できるわけではありません。成長性や設備投資の負担、保有不動産の扱いによっても評価は変わります。

この記事では、EV/EBITDAマルチプルの意味と計算方法、株式価値を求める流れ、M&Aで使う際の注意点を解説します。

EV/EBITDAマルチプルとは

EV/EBITDAマルチプルは、EVをEBITDAで割って求める評価倍率です。「EV/EBITDA倍率」とも呼ばれます。

EV/EBITDA倍率=EV÷EBITDA

EVが30億円、年間のEBITDAが5億円であれば、倍率は6倍です。その事業が、年間EBITDAの6倍に相当する価値で評価されていることを示します。

M&Aでは、類似する上場企業の倍率などを参考に、対象会社の価値を推計するために用いられます。

EVとは

EVは「Enterprise Value」の略で、一般に「企業価値」と訳されます。ただし、資料によっては、非事業用資産を除いた「事業価値」を指します。

この記事では、EBITDAが表す事業に対応する価値をEVと呼びます。

現預金以外の非事業用資産や特殊な調整項目がない会社では、基本的に次の式で考えられます。

EV=株式価値+有利子負債-現預金

上場企業の株式価値には、通常、株式時価総額を用います。

遊休不動産などの非事業用資産がある場合は、関連収益の扱いと整合するよう調整します。優先株式や非支配持分などがある会社では、追加の調整が必要になる場合もあります。

なお、現預金を純有利子負債の計算で差し引いた場合は、非事業用資産として再び控除しないよう注意します。

EBITDAとは

EBITDAは、利息・税金・有形固定資産の減価償却・無形資産の償却前の利益を指します。

一般的な簡便計算は、次のとおりです。

EBITDA=営業利益+営業利益の計算で控除された減価償却費・償却費

資金調達や償却方法などの違いの影響を抑え、企業間の収益力を比較するために使われます。

ただし、EBITDAや調整後EBITDAの算定方法は、企業や資料によって異なることがあります。名称だけで判断せず、含まれる項目を確認します。

EV/EBITDA倍率の計算例

次の上場企業を例に計算します。ここでは、その他の調整項目はないものとします。

項目 金額
株式時価総額 20億円
有利子負債 12億円
現預金 2億円
営業利益 3億円
営業利益に含まれる減価償却費・償却費 2億円

まず、EVを求めます。

20億円+12億円-2億円=30億円

次に、EBITDAを計算します。

3億円+2億円=5億円

したがって、EV/EBITDA倍率は次のとおりです。

30億円÷5億円=6倍

この結果を、事業内容や成長性などが類似する企業の倍率と比較して評価します。

M&Aで株式価値を求める流れ

1.比較対象となる企業を選ぶ

対象会社と事業内容、収益構造、規模、成長性などが近い企業を選びます。

同じ業種でも、顧客層や収益モデルが異なれば、適切な比較対象とは限りません。複数社を比較し、極端な倍率を示す企業については、その理由を確認します。

2.EBITDAの期間と算定条件を揃える

直近年度の実績、直近12か月の実績、翌年度の予測など、比較する期間を揃えます。

一時的な収益・費用を調整する場合も、対象会社と比較企業で扱いを整合させます。実績倍率と予測倍率を混在させると、評価の前提がずれるため注意が必要です。

3.倍率を対象会社のEBITDAに掛ける

対象会社のEBITDAが1億円で、適用倍率を6倍とした場合、EVは次のように推計されます。

1億円×6倍=6億円

4.株式価値に換算する

推計したEVから有利子負債を差し引き、現預金や、EVに含めていない非事業用資産などを加算します。

次の条件を仮定します。

項目 金額
推計したEV 6億円
有利子負債 2億円
加算対象とする現預金 5,000万円
関連収益をEBITDAから除外した遊休不動産の評価額 1億円

株式価値の目安は、次のとおりです。

6億円-2億円+5,000万円+1億円=5億5,000万円

これは、ほかの調整項目がない前提の計算です。実務では、債務に類する項目や税負担なども確認します。

また、算定額は価格交渉の判断材料です。最終的な取引価格には、買収後のシナジーや引き継ぐリスク、支払条件なども影響します。

倍率をどう解釈するか

高倍率・低倍率の理由を確認する

倍率が高い企業には、成長性、収益の安定性、競争優位性などが期待されている可能性があります。一方、市場の期待が過度に膨らんでいる場合もあります。

低倍率の企業も、割安な可能性がある一方、業績の悪化や顧客への依存、大規模な設備更新などの問題を抱えているかもしれません。

倍率の大小だけで結論を出さず、企業間の違いを調べることが大切です。

「何倍なら適正」という一律の基準はない

適正な倍率は、事業内容や成長性、設備投資の負担、市場環境などによって変わります。

業界平均を使う場合も、集計対象や評価時点、実績・予測の別を確認します。上場企業の倍率と過去のM&A取引倍率は、支配権や取引条件などの前提が異なるため、同じものとして扱えません。

倍率は投資回収年数ではない

EV/EBITDAが5倍でも、5年で投資を回収できることを意味しません。

EBITDAは、設備投資、運転資金の増減、税金などの資金負担を反映していないためです。回収期間を検討する際は、実際に得られるキャッシュフローを確認します。

EV/EBITDAマルチプルのメリットと注意点

収益力と評価額の関係を比較しやすい

EV/EBITDAは、資金調達や償却の違いの影響を抑え、事業の収益力に対してどの程度の価値が付いているかを比較するのに役立ちます。

倍率で示すため、評価の前提を共有しやすい点も特徴です。

ただし、比較企業の選定や利益の調整には判断が必要です。計算が単純でも、評価者の主観が入らないわけではありません。

設備投資の負担は別途確認する

減価償却費を足し戻しても、設備の更新に必要な支出がなくなるわけではありません。

同じEBITDAでも、毎年多額の投資が必要な会社と、少ない投資で事業を維持できる会社では、手元に残る資金が異なります。

設備を多く使う事業では、償却の違いを抑えた比較に加え、維持・更新投資を検討します。

調整後EBITDAを過大に見積もらない

中小企業のM&Aでは、一時的な費用やオーナー関連の支出などを見直し、通常の収益力を表す「調整後EBITDA」を検討することがあります。

ただし、「買収後に削減できるはず」という理由だけで費用を足し戻すと、収益力を過大に評価するおそれがあります。

本当に一時的な費用か、削減後に代替費用が発生しないかを確認します。臨時の収益についても、継続性がなければ除外を検討します。

リースの会計処理を揃える

リースの会計処理によって、賃借料が費用となる場合と、減価償却費・利息として認識される場合があります。

この違いは、EBITDAと負債の両方に影響します。比較企業間で処理が異なる場合は、リース負債と関連費用の扱いを揃えます。

適用が難しい企業もある

EBITDAが赤字、または極端に小さい企業では、倍率による比較が難しくなります。銀行など、利息の収支が本業の中心となる企業にも、そのまま適用するのは適切ではありません。

必要に応じてDCF法や純資産法などを使い、結果の差がどの前提から生じているかを検討します。

不動産を保有する企業の評価で注意すること

事業用不動産の二重計上を防ぐ

工場やホテルなど、事業の利益を生むために使う不動産は、その経済的な価値がEVの評価に含まれている場合があります。

EBITDAに倍率を掛けた評価額へ、保有不動産の時価をそのまま加えると、価値を重複して計上するおそれがあります。

不動産を別途評価する場合は、関連する収益や費用をどう扱うかも含め、事業評価との整合性を確認します。

自社保有と賃借の違いを考慮する

自社所有の建物を使う会社では、建物の減価償却費を足し戻すことで、EBITDAが大きくなる場合があります。一方、通常の賃借料を費用として計上する会社では、その費用がEBITDAに残ります。

事業内容が似ていても、不動産を所有するか借りるかによって比較条件が変わります。必要に応じて適正賃料を考慮するなど、前提を調整します。

遊休不動産は収益と切り分けて評価する

本業に使っていない土地や建物を非事業用資産として加算する場合は、市場価値を確認します。

賃料収入などがEBITDAに含まれているなら、その収益を残したまま物件価値を全額加算していないか確認が必要です。売却を想定する場合は、処分費用や税負担の扱いも検討します。

まとめ:倍率の前提と、不動産の扱いを確認する

EV/EBITDAマルチプルを使う際は、比較企業、利益の算定条件、株式価値への調整を揃えることが欠かせません。

特に不動産を保有する会社では、事業用・非事業用の区分や、所有・賃借の違いが評価に影響します。「遊休不動産をいくらで加算すべきか」「保有物件の価値が買収価格を左右する」といった場合は、不動産の評価根拠を整理しておくと、価格交渉に役立ちます。

中央不動産鑑定所は、不動産鑑定評価や、賃貸等不動産の時価評価などに対応しています。M&Aに向けて保有不動産の市場価値を確認したい場合は、ご相談ください。

 

 

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