不動産保有会社を買収する際、保有物件の価値だけを見て価格を決めることはできません。株式譲渡で会社を取得する場合、不動産とともに借入金や賃貸借契約、過去の税務上の問題も対象会社に残るためです。
また、不動産の帳簿価額と現在の市場価値が異なることもあります。買い手は物件の価値と収益性を調べたうえで、会社全体の資産・負債を確認する必要があります。
この記事では、不動産保有会社を買収する際の調査項目と、不動産の評価結果を株式価格や契約条件にどう反映するかを解説します。
不動産保有会社の買収と物件の売買は何が違う?
不動産保有会社の株式を取得する場合、土地や建物の所有者は原則として対象会社のままです。買い手はその会社の経営権を取得し、間接的に不動産を保有・運営します。
一方、物件の売買では、土地や建物そのものを取得します。両者の違いは、買収後に引き受ける範囲にも表れます。
| 物件の売買 | 株式譲渡による会社の買収 | |
| 取引対象 | 土地・建物など | 対象会社の株式 |
| 不動産の所有者 | 買い手に変わる | 対象会社のまま |
| 主な調査対象 | 物件の権利、状態、収益 | 物件に加え、会社の財務、税務、契約 |
| 借入金など | 引き受ける範囲を個別に検討 | 対象会社の債務として残る |
株式譲渡では、既存の賃貸借契約も原則として対象会社の契約として存続します。ただし、借入契約などには株主変更時の通知や承諾を定めた条項がある場合もあります。契約がそのまま続くと決めつけず、個別に確認することが大切です。
不動産の評価額と株式の買収価格は同じではない
不動産保有会社の買収で混同しやすいのが、「物件の価格」と「会社の株式価格」です。
仮に対象会社の全株式を取得し、所有する不動産の評価額が5億円、現預金が2,000万円、借入金が3億円で、ほかに資産や負債がないとします。この場合、株式価値を考えるための単純な計算例は次のとおりです。
不動産5億円+現預金2,000万円-借入金3億円=2億2,000万円
ただし、2億2,000万円がそのまま適正な買収価格になるわけではありません。未払費用や敷金・保証金の返還義務、過去の税務上の問題が見つかれば、それらも検討する必要があります。
また、近く大規模修繕が必要な場合は、その費用が不動産の評価額にすでに反映されているかを確認します。反映済みの費用を株式価格からもう一度差し引くと、同じ負担を二重に計算してしまうためです。
不動産の価値を適切に把握したうえで、会社全体の資産・負債を検討することが、株式価格を考える基本になります。
買収前に確認すべき6つのポイント
1.保有不動産の市場価値
対象会社の貸借対照表に記載された不動産の帳簿価額は、現在の市場価値と一致するとは限りません。取得から長い時間がたった物件や、周辺の取引環境が変わった物件では、差が大きくなる場合があります。
評価に当たっては、立地や用途、建物の状態、周辺の取引事例、賃料収入などを確認します。不動産鑑定評価では、物件の特性に応じて原価法、取引事例比較法、収益還元法などを適用します。
特に収益物件では、現在の賃料だけで判断しないことが大切です。空室の発生や賃料の変動、管理費、将来の修繕費まで踏まえて、どの程度の収益が見込めるかを検討します。
2.賃料収入とテナントの状況
賃貸借契約書と実際の入金記録を照らし合わせ、賃料、契約期間、更新・解約の条件、滞納の有無を確認します。敷金・保証金の額や返還条件も、会社の負担を把握するうえで必要です。
主要テナントへの依存度が高い場合は、そのテナントが退去したときの影響を試算しましょう。退去後の空室期間や、新たに募集する際の賃料によって、物件の収益性は変わります。
また、現在の賃料が周辺相場より高い場合、その水準が次回の契約更新後も続くとは限りません。過去の収入だけでなく、買収後に得られる収入を見積もる視点が必要です。
3.建物の状態と将来の修繕費
建物の外観に大きな問題がなくても、空調や給排水設備の更新、大規模修繕に多額の費用がかかる場合があります。過去の修繕履歴と今後の修繕計画を確認し、買収後に必要となる支出を見積もります。
必要に応じて、建物や設備の状態、耐震性、環境上の懸念などを調べるエンジニアリングレポートも活用します。ただし、報告書によって調査範囲は異なります。結論だけを読むのではなく、調査していない項目や追加調査が必要な項目も確認しましょう。
4.権利関係と法令上の制約
登記事項証明書などで所有者や抵当権を確認するほか、境界、借地権、隣地との取り決めなども調べます。建物については、確認済証・検査済証の有無や増改築の履歴、現在の利用状況を確認します。
土壌汚染やアスベストが懸念される物件では、過去の土地利用や既存の調査資料も確認が必要です。問題が見つかった場合には、対応費用に加え、今後の利用や売却への影響も検討します。
資料が見つからない場合は、「問題がない」と判断せず、追加調査が可能か、未確認のまま取引するなら誰がリスクを負うのかを整理しておくことが大切です。
5.借入金・会社の債務・税務
株式譲渡では、対象会社の借入金や契約上の義務が会社に残ります。借入残高と返済条件に加え、担保の設定状況、株主変更時に金融機関への通知や承諾が必要かを確認します。
財務諸表だけでは把握しにくい負担にも注意しましょう。未払費用、敷金・保証金の返還義務、訴訟・紛争、代表者や関係会社との貸し借りなどが考えられます。
過去の税務申告についても、申告内容と実際の取引に食い違いがないか確認が必要です。物件の価値が高くても、会社に多額の負担が残っていれば、株式価格の判断は変わります。
6.買収後の管理体制
対象会社の運営が、経営者や特定の担当者に依存している場合があります。賃料管理、テナント対応、修繕手配を誰が担っているのかを把握し、買収後も業務を続けられる体制を考えます。
管理会社との契約や、図面・修繕記録などの資料の保管状況も確認しておきたい項目です。買収後に担当者が変わる場合は、テナントや取引先への連絡方法まで決めておくと、運営の引き継ぎが進めやすくなります。
不動産鑑定を検討したい場面
すべての案件で同じ範囲の調査が必要になるわけではありません。ただし、次のような場合は、不動産の価値を専門的に検討する必要性が高まります。
- 帳簿価額と想定される市場価値に大きな差がある
- 収益物件を複数保有し、物件ごとの収益性が異なる
- 空室や大規模修繕が価格に大きく影響する
- 売り手と買い手で不動産の価格に対する見方が異なる
例えば、売り手が過去の取得価格をもとに物件の価値を考え、買い手が現在の賃料収入を重視している場合、価格の議論はかみ合いにくくなります。どのような条件で不動産を評価するかを整理すれば、双方が価格を検討するための共通の材料を持てます。
なお、不動産鑑定評価は対象物件の価値を検討するものです。株式価格を決める際には、その結果に会社の現預金、借入金、その他の資産・負債を合わせて考えます。
調査結果を買収条件にどう反映する?
デューデリジェンスは、問題を見つけるだけで終わりではありません。判明した事実に応じて、価格や契約条件、買収後の計画を検討します。
| 調査で分かったこと | 検討する対応 |
| 近く多額の修繕費が必要 | 費用が不動産評価に反映済みかを確認し、価格や修繕計画を検討する |
| 主要テナントの退去が見込まれる | 退去後の収益を試算し、物件評価を見直す |
| 株主変更に金融機関の承諾が必要 | 承諾取得を取引実行の条件にするか検討する |
| 未払債務や紛争が見つかった | 売り手の説明や補償範囲、価格への反映を協議する |
| 境界や建物の資料が不足している | 追加調査の要否と、未確認のまま取引する場合の扱いを決める |
修繕費が見込まれるからといって、一律にその全額を株式価格から差し引くとは限りません。どのリスクが不動産の評価額に反映済みで、何が未反映なのかを確認したうえで交渉することが大切です。
税務・許認可は取引方法と事業内容に合わせて確認する
株式譲渡では、通常、対象会社が所有する不動産の所有権は移転しません。そのため、株式の取得そのものは、買い手が物件を直接取得する場合の不動産取得税とは区別して考えます。
ただし、株式譲渡を選べば取引全体の税負担が必ず軽くなるわけではありません。売り手に生じる課税や、対象会社に残る税務上の問題も含め、取引方法ごとに検討する必要があります。
また、自社物件を賃貸していることだけを理由に、宅地建物取引業の免許が必要になるわけではありません。対象会社が不動産の売買や仲介などを事業として行っている場合は、その業務内容に応じて免許や法令への対応状況を確認します。
税務や許認可の判断は取引の形や対象会社の事業内容によって変わるため、具体的な案件ではそれぞれの専門家に確認しましょう。
まとめ|不動産の価値を把握し、買収条件の判断材料に
不動産保有会社の買収では、保有物件の価格だけでなく、賃料収入の見通し、将来の修繕費、借入金やその他の債務を合わせて確認する必要があります。株式譲渡では対象会社の契約や負債も残るため、物件と会社の両面から調査することが欠かせません。
なかでも、不動産の評価額と株式の買収価格を分けて考えることが大切です。物件の市場価値を把握できれば、帳簿価額との差や、価格交渉で検討すべき点が見えてきます。そのうえで、調査で判明した負担のうち、評価額に反映されていないものを確認し、買収条件を検討します。
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