M&Aでは、対象企業の財務状況や契約関係だけでなく、保有している土地や建物、工場などに環境上の問題がないかを確認する必要があります。
たとえば、買収後に土壌汚染が判明すれば、追加調査や浄化のために想定外の費用が発生するかもしれません。古い建物にアスベストが使用されていれば、将来の改修や解体にも影響します。
工場などでは、排水や廃棄物の処理、PCBを含む機器の管理なども確認しておきたいところです。
こうした環境面のリスクを取引前に調査し、その影響を整理するのが「環境デューデリジェンス(環境DD)」です。
この記事では、M&Aにおける環境デューデリジェンスの意味から、主な調査項目、進め方、企業価値や不動産価値との関係まで解説します。
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環境デューデリジェンスとは
環境デューデリジェンスとは、M&Aや不動産取引などに際して、対象企業や対象不動産が抱えている環境上のリスクを調査・評価する手続きです。
代表的な調査対象には、次のようなものがあります。
- 土壌汚染
- 地下水汚染
- アスベスト
- PCB廃棄物
- 排水・水質
- 廃棄物管理
- 大気汚染
- 騒音・振動
- 環境関連法令への対応状況
もっとも、すべてのM&Aで同じ内容を調査するわけではありません。
オフィスを中心に事業を行う会社と、化学物質を扱う製造工場を保有する会社では、当然ながら想定される環境リスクが異なります。
対象企業の業種や過去の土地利用、保有施設などを確認したうえで、どこまで調査するかを決めていきます。
一般的なデューデリジェンスとの違い
デューデリジェンスとは、M&Aなどの取引を行う前に対象企業の実態やリスクを調査する手続きの総称です。
財務DDでは財務状況、法務DDでは契約や訴訟などの法的リスク、人事DDでは労務や人員体制などを確認します。
環境DDは、その中でも環境に関する問題を調べるものです。
特に、工場、倉庫、研究施設、ガソリンスタンド跡地などを保有する企業では、土地や設備に環境リスクが存在する可能性があるため、調査の重要性が高くなります。
環境上の問題が見つかると、対策費用だけではなく、不動産の利用方法や事業計画そのものに影響する場合があります。この点が、環境DDを単なる「施設のチェック」で終わらせてはいけない理由です。
M&Aで環境デューデリジェンスが必要な理由
買収後の想定外の費用を防ぐ
環境問題は、取引後に発覚すると多額の費用につながることがあります。
たとえば、対象企業が保有する土地から有害物質が検出された場合、追加調査や対策工事が必要になる可能性があります。
排水設備が老朽化していれば、買収後に設備更新が必要になることもあるでしょう。
環境DDでは、こうした問題が存在するかだけでなく、どの程度の対応が必要になりそうかまで確認します。
法令違反や行政対応の有無を確認する
企業活動には、土壌、水質、大気、廃棄物などに関するさまざまな法令や条例が関係します。
そこで、必要な届出や管理が行われているか、行政から指導や命令を受けていないか、過去に環境事故が起きていないかといった点も確認します。
適用される規制は、事業内容や施設、地域、使用している物質などによって異なります。環境DDでは、対象企業の実態に応じて個別に確認する必要があります。
不動産や企業の価値への影響を把握する
環境リスクは、対象企業が保有する不動産の価値にも関係します。
たとえば、土壌汚染がある土地について考えてみましょう。
単純に「浄化費用が1,000万円だから、不動産価値から1,000万円を差し引く」と判断できるとは限りません。
汚染の範囲や程度、今後の土地利用、対策方法、売却可能性などによって、不動産価値への影響は変わります。
工場や事業用地などを多く保有する企業のM&Aでは、環境DDの結果と不動産評価を切り離さずに検討することが大切です。
環境デューデリジェンスの主な調査項目
1.土壌汚染
環境DDで代表的な調査対象となるのが土壌汚染です。
いきなり土を掘って分析するのではなく、まずは過去の土地利用や施設の使用状況などから汚染の可能性を確認します。
具体的には、過去にどのような事業が行われていたのか、どのような化学物質を扱っていたのか、地下タンクが設置されていなかったか、過去に土壌調査が行われていないかなどを調べます。
その結果、汚染の可能性が高いと判断された場合には、土壌の採取・分析など、より詳しい調査へ進むことがあります。
2.地下水汚染
土壌に有害物質が存在すると、地下水へ影響が及んでいる場合があります。
特に注意したいのは、汚染が対象敷地内だけにとどまらない可能性がある点です。
地下水の流れによっては周辺へ汚染が移動していることも考えられるため、必要に応じて地質や地下水の流向なども踏まえて確認します。
3.アスベスト
築年数の経過した建物では、建材にアスベストが含まれている可能性があります。
アスベストが存在しているからといって、建物を通常利用するだけで直ちに除去が必要になるとは限りません。
一方、改修や解体を行う場合には事前調査や飛散防止措置などが必要になるため、工事費やスケジュールに影響することがあります。
M&A後に建て替えや大規模改修を予定している場合には、特に確認しておきたい項目です。
4.PCB廃棄物
古い変圧器やコンデンサーなどには、PCB(ポリ塩化ビフェニル)を含むものがあります。
環境DDでは、対象となる機器や廃棄物が残っていないか、適切に保管・処理されているかなどを確認します。
設備の年代や管理記録なども手掛かりになります。
5.排水・水質
製造業などでは、事業活動によって排水が発生します。
そのため、排水処理設備が適切に稼働しているか、測定結果に問題がないか、必要な届出が行われているかなどを確認します。
買収後に排水設備の更新が必要と分かれば、それも将来の投資額として考えておかなければなりません。
6.廃棄物管理
産業廃棄物などの保管・処理状況も確認します。
主な確認対象は、廃棄物の種類や保管場所、処理委託先、契約書、マニフェストなどです。
過去に不適正な処理が行われていないか、長期間処理されていない廃棄物が残っていないかといった点もチェックします。
7.大気・騒音・振動・悪臭
工場や大型施設では、事業内容によって大気への排出、騒音、振動、悪臭なども調査対象になります。
測定結果だけでなく、近隣住民からの苦情や過去のトラブルがないかを確認するケースもあります。
周辺環境との関係は書類だけでは分からないことも多いため、現地確認が有効です。
8.環境関連法令への対応
施設の運営に必要な許可や届出、測定、記録などが適切に行われているかを確認します。
過去に行政指導や改善命令などを受けている場合には、すでに対応が完了しているのか、今後も追加対応が必要なのかまで確認します。
環境デューデリジェンスの進め方
1.対象企業と不動産の概要を把握する
最初に確認するのは、対象企業がどのような事業を行い、どのような土地・建物・設備を保有しているかです。
この段階で、おおよその環境リスクを絞り込みます。
たとえば、長年工場として使用されてきた土地であれば、土壌や地下水を重点的に見る必要があるかもしれません。
一方、比較的新しいオフィスだけを使用している企業であれば、調査範囲は異なります。
2.資料を確認する
次に、対象企業から提供された資料や公的な情報などを確認します。
土地の利用履歴、工場の配置図、使用してきた化学物質、過去の環境調査、排水測定結果、廃棄物関連資料、行政とのやり取りなどが主な確認資料です。
過去に何が行われていたのかを追うことで、現在の状態だけを見ても分からないリスクが見つかることがあります。
3.現地を確認する
資料調査だけで環境DDを完結させるのは難しい場合があります。
現地では、化学物質の保管場所やタンク、廃棄物置場、排水設備、建物の状態などを確認します。
書類上は存在しない設備が実際には残っていた、といったケースも想定されるため、資料と現況を照合する意味でも現地調査は有効です。
4.必要に応じて詳細調査へ進む
初期調査で問題が疑われた場合には、調査を一段深めます。
土壌汚染であれば、土壌ガス調査や土壌・地下水の採取・分析などが考えられます。
環境DDでは、最初からあらゆる項目を詳細に調査するのではなく、初期調査でリスクを絞り込み、必要な部分を詳しく調べていく進め方が一般的です。
5.M&Aへの影響を整理する
調査結果が出たら、環境上の問題を一覧にして終わりではありません。
M&Aの意思決定に使えるよう、
- どのような対応が必要なのか
- どの程度の費用が想定されるのか
- 対応にどのくらいの期間がかかるのか
- 事業運営や不動産利用に影響するのか
といった点まで整理します。
ここまで確認して初めて、環境DDの結果を取引判断に反映できます。
環境デューデリジェンスの結果はM&Aにどう影響する?
環境DDで問題が見つかったからといって、必ずしもM&Aを中止するわけではありません。
問題の程度と必要な対応を把握したうえで、取引条件を調整できるケースもあります。
買収価格への影響
将来多額の環境対策費用が必要になると見込まれる場合、その負担を事業計画や企業価値評価に反映して買収価格を検討することがあります。
対象企業が重要な土地や工場を保有している場合には、不動産価値への影響も含めて考える必要があります。
契約条件への影響
環境上の問題について、売り手側にクロージングまでの対応を求めたり、表明保証など契約上の手当てを検討したりする場合もあります。
どのような対応が適切かは、問題の内容や取引スキームによって異なります。法務DDなど他の調査結果との連携も欠かせません。
買収後の事業計画への影響
対策工事によって施設を一時停止しなければならなかったり、設備更新に追加投資が必要になったりする場合には、買収後の事業計画にも影響します。
環境DDでは、目の前の取引だけでなく、買収後に対象企業をどう運営するのかまで考えておく必要があります。
環境デューデリジェンスを行う際の注意点
調査範囲をむやみに広げない
環境問題は調べようと思えば非常に広い範囲まで調査できます。
ただし、リスクが低い項目まで詳細に確認すれば、時間も費用も増えていきます。
対象企業の業種、施設、土地利用履歴などからリスクの高い項目を絞り、必要に応じて調査を深める方が実務的です。
環境だけで完結させない
環境DDで確認された問題は、他のデューデリジェンスにも関係します。
環境法令への違反があれば法務上の問題となり、対策費用が必要なら財務や企業価値評価にも影響します。
土地の価値に関係する問題であれば、不動産鑑定の視点も必要です。
環境だけを独立して判断するのではなく、M&A全体の中で評価する必要があります。
必要に応じて専門家を使い分ける
土壌汚染、廃棄物、建築、法令、不動産評価などでは、求められる専門性が異なります。
案件の内容に応じて、環境コンサルタント、土壌汚染調査の専門家、弁護士、不動産鑑定士などと連携することで、リスクをより正確に捉えやすくなります。
サプライチェーンの「環境デューデリジェンス」とは意味が異なる
近年は、M&Aとは別の文脈でも「環境デューデリジェンス」という言葉が使われています。
代表的なのが、企業の事業活動やサプライチェーンにおいて、人権・環境などへの負の影響を特定し、防止・軽減するデューデリジェンスです。
OECDは、責任ある企業行動の一環として、企業自身の事業だけでなく、サプライチェーンや取引関係における実際または潜在的な負の影響を対象としたリスクベースのデューデリジェンスを示しています。(OECD)
こちらは、M&Aに際して特定の企業や不動産が抱える環境リスクを調査する環境DDとは、目的も対象範囲も異なります。
同じ「環境デューデリジェンス」という言葉でも、どの文脈で使われているのかを区別して理解した方がよいでしょう。
欧州で進む環境・人権デューデリジェンスの制度化
EUでは、企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)が2024年7月25日に発効しています。
その後、制度の簡素化を目的とした改正が行われ、2026年9月時点では、加盟国の国内法化期限が2028年7月26日、対象企業への適用開始が2029年7月26日とされています。対象となる一定の大規模企業には、自社や子会社、バリューチェーンにおける人権・環境への負の影響を把握し、対応することが求められます。(European Commission)
これもM&Aにおける環境DDとは別の制度ですが、企業に対して環境リスクを把握・管理することを求める動きが国際的に広がっている例といえます。
まとめ
環境デューデリジェンスは、M&Aや不動産取引に際して、対象企業や対象不動産が抱えている環境リスクを事前に把握するための調査です。
土壌・地下水汚染、アスベスト、PCB、排水、廃棄物など、確認すべき内容は企業によって異なります。特に工場や事業用地を保有する企業では、環境上の問題が買収後の追加費用や事業計画に影響することも少なくありません。
そして、見落とせないのが不動産価値との関係です。
土壌汚染などが確認された土地は、単純に対策費用だけを差し引けば適正な価値を求められるとは限りません。汚染の状況や対策方法、土地の利用方法、将来的な売却可能性などを踏まえて評価する必要があります。
M&Aで対象企業が工場、倉庫、事業用地などを保有している場合には、環境DDで把握した内容を不動産評価にも適切に反映させることが、企業価値を検討するうえで大切です。
中央不動産鑑定所では、M&Aや事業承継に伴う不動産鑑定評価をはじめ、企業が保有する土地・建物などの価値の把握をサポートしています。
「買収対象企業が保有する土地や工場の価値を確認したい」「土壌汚染などの環境要因を不動産評価にどう反映すればよいかわからない」「M&Aにおける企業価値評価の精度を高めたい」といった場合には、不動産鑑定の専門家に相談することも選択肢の一つです。
M&Aに関連する不動産評価についてお悩みの場合は、中央不動産鑑定所までお気軽にお問い合わせください。
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