代諾許可(借地権)
借地権の「代諾許可」とは
借地権の代諾許可とは、借地上の建物を第三者に売却する際、地主が土地賃借権の譲渡・転貸を承諾しない場合に、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与える制度です。
法律上の正式な呼び方は、現在の借地借家法では、土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可です。現在は借地借家法19条に規定されています。
これは通常の訴訟ではなく、土地所在地を管轄する地方裁判所で行われる「借地非訟事件」です。
典型例は、次のような場合です。
- Aが地主から土地を借り、その上に建物を所有している
- Aが建物をBに売却したい
- 建物の売却に伴い、土地賃借権もAからBへ移す必要がある
- しかし地主が承諾しない
- Aが裁判所に申し立て、地主の承諾に代わる許可を求める
建物だけを売っても、買主が敷地を利用できなければ意味がありません。そのため、借地上の建物売却では、建物と土地賃借権を一体として処理する必要があります。
なお、「借地権」という言葉には地上権も含まれますが、この代諾許可制度が対象とするのは、厳密には土地の賃借権です。地上権譲渡のための制度ではありません。
旧法の規定(旧借地法9条ノ2)
根拠条文
旧借地法では、代諾許可は旧借地法9条ノ2に規定されていました。
旧法の基本的な要件は、次のとおりです。
- 借地権者が、借地上の建物を第三者に譲渡しようとしている
- それに伴い、土地賃借権を第三者に譲渡し、又は土地を転貸する必要がある
- 地主が譲渡又は転貸を承諾しない
- 第三者が土地賃借権を取得しても、地主に不利となるおそれがない
この場合、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができました。
旧法で裁判所が考慮した事情
旧借地法9条ノ2第2項は、裁判所が次の事情を考慮すると定めていました。
- 土地賃借権の残存期間
- 借地関係の従前の経過
- 譲渡又は転貸を必要とする事情
- その他一切の事情
したがって、「新しい借地人が地主に不利かどうか」だけでなく、借地人がなぜ建物を売却する必要があるのか、過去に地代滞納や契約違反がなかったか、残存期間がどの程度あるかなども総合的に判断されました。
条件付き許可
旧法でも、裁判所は単純に無条件で許可するだけではなく、
- 借地条件を変更する
- 一定の金銭を地主に支払うことを条件とする
ことができました。
この金銭は一般に「譲渡承諾料」「名義書換料」などと呼ばれます。ただし、法律に固定割合が定められているわけではありません。個別の借地条件、土地価格、借地権価格、残存期間などを踏まえて決められます。
地主の介入権
借地人が代諾許可を申し立てると、地主は、第三者に売るのではなく、自分が建物と土地賃借権を買い取る
という申立てをすることができました。これを一般に地主の介入権といいます。
地主が裁判所の定める期間内に介入権を行使すると、裁判所は相当な対価を定め、原則として地主に建物及び土地賃借権を取得させることができました。
競売の場合
任意売買ではなく、競売又は公売によって第三者が借地上の建物を取得した場合は、旧借地法9条ノ3が適用されました。
この場合は、建物を取得した第三者自身が代諾許可を申し立てることができました。ただし、建物代金を支払った後2か月以内に申し立てる必要がありました。
新法の規定(借地借家法19条)
現行法の基本構造
現在の借地借家法19条も、旧借地法9条ノ2とほぼ同じ制度です。
借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、第三者が土地賃借権を取得し、又は転借しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が承諾しないときは、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えることができます。(e-Gov 法令検索)
現行法上の中心的な要件は、次の4点です。
①借地上の建物を第三者に譲渡しようとしていること
現行法19条は、「建物を第三者に譲渡しようとする場合」を対象としています。
したがって、通常の任意売買では、建物を譲渡する前に、現在の借地人が申し立てるのが原則です。
②土地賃借権の譲渡又は転貸が必要であること
「譲渡」と「転貸」は法律関係が異なります。
- 譲渡
現在の借地人が借地関係から離れ、買主が新しい借地人になる - 転貸
現在の借地人は地主との契約関係に残り、買主が転借人となる
実務上は、建物売却とともに土地賃借権を買主へ譲渡する形が一般的です。
③地主が承諾しないこと
地主への承諾依頼と協議が前提です。
申立書には、借地契約の内容だけでなく、申立て前に行った地主との協議の概要も記載します。(最高裁判所)
④新しい借地人によって地主に不利となるおそれがないこと
ここが最も重要な判断要素です。
具体的には、例えば次のような点が問題になります。
- 買主に地代の支払能力があるか
- 買主の信用状態に問題がないか
- 建物をどのように利用する予定か
- 居住用から店舗・事業用への変更があるか
- 騒音、危険物、近隣トラブルなどの懸念がないか
- 借地条件に反する利用を予定していないか
- 反社会的勢力との関係など、信頼関係を損なう事情がないか
地主の単なる感情的な反対や、「知らない人に貸したくない」というだけでは、直ちに法的な不利益となるとは限りません。ただし、許可は自動的に出るわけではなく、裁判所は残存期間、従前の経過、譲渡の必要性その他一切の事情を考慮します。
裁判所ができる処分
現行法でも裁判所は、次のような裁判をすることができます。
- 無条件で譲渡又は転貸を許可する
- 一定の金銭を地主に支払うことを条件に許可する
- 地代、用途その他の借地条件を変更して許可する
- 新しい借地人が地主に不利であるとして申立てを認めない
- 地主の介入権行使を認め、地主に建物等を取得させる
裁判所は原則として、弁護士、不動産鑑定士、有識者などで構成される鑑定委員会の意見を聴きます。鑑定委員会は、許可の可否、承諾料、借地権価格、建物価格などについて意見を提出します。(最高裁判所)
地主の介入権――現行法19条3項
現行法でも、地主には介入権があります。
借地人が第三者への譲渡許可を申し立てた場合、地主は裁判所が定める期間内に、自ら建物と土地賃借権を譲り受けたいと申し立てることができます。
介入権が認められると、当初予定していた第三者への売却ではなく、地主が裁判所の定める相当な対価で取得することになります。したがって、代諾許可の申立ては、単に「第三者への売却を裁判所に認めてもらう手続」ではなく、地主が買主として介入してくる可能性を伴う手続です。
競売・公売の場合――現行法20条
競売又は公売で借地上の建物を取得した場合は、19条ではなく、原則として借地借家法20条を使います。
この場合は、建物を取得した買受人が申立人となる、建物代金を支払った後2か月以内に申し立てる、という点が任意売買と異なります。
旧法と新法の比較
| 項目 | 旧借地法 | 現行借地借家法 |
| 任意売買の根拠 | 9条ノ2 | 19条 |
| 申立人 | 現在の借地人 | 現在の借地人 |
| 基本要件 | 新借地人が地主に不利でないこと | 同じ |
| 裁判所の考慮事項 | 残存期間、従前の経過、譲渡の必要性等 | ほぼ同じ |
| 金銭支払条件 | 可能 | 可能 |
| 借地条件変更 | 可能 | 可能 |
| 地主の介入権 | 9条ノ2第3項 | 19条3項 |
| 競売・公売 | 9条ノ3 | 20条 |
| 転借地関係 | 9条ノ4で準用 | 19条7項等に整理 |
| 実質的な制度内容 | 現行制度の原型 | 旧法をほぼ承継 |
つまり、代諾許可については、旧法と新法の間に根本的な制度変更はありません。新法は旧法の制度を、用語や条文構成を整理して引き継いだものと理解してよいでしょう。
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